Agenda 21 19章を読む - 2 –

この記事は、Agenda 21ページの続きです。今回は19章第1節を読み終えます。Agenda 21 19章第1節には19章全体の話題が提示され、話の展開が暗示されています。

前回も言いましたがAgenda 21の19章は工業化学品やバイオサイド等の化学品、そしてそれを使った物品(article ー成形品とも訳されている)に対する今日の化学規制の方向性を理解するのに重要です。そこでここではAgenda 21 19章を丁寧にゆっくりと読んで、わかりやすい訳をつけ、さらに、解説を何回かに分けて書くことにしています。

Agennda 21 19章の最初の二文では、21世紀の持続可能な発展、人の生活の向上というAgenda 21の全体の大きな課題のもとで、環境の観点から化学品をうまく管理すること(化学品健全管理)が必要であり、それについて19章で記載されていることが暗示されていました。

1. 翻訳

では前回の冒頭の2文に続き、第1節のすべてを訳すことにします。

Agenda 21 – Chapter 19

ENVIRONMENTALLY SOUND MANAGEMENT OF TOXIC CHEMICALS, INCLUDING PREVENTION OF ILLEGAL INTERNATIONAL TRAFFIC IN TOXIC AND DANGEROUS PRODUCTS

有害化学品の環境にとって健全な管理―有害で危険な製品の不正国際取引防止を含めて―

19.1. A substantial use of chemicals is essential to meet the social and economic goals of the world community and today’s best practice demonstrates that they can be used widely in a cost-effective manner and with a high degree of safety. However, a great deal remains to be done to ensure the environmentally sound management of toxic chemicals, within the principles of sustainable development and improved quality of life for humankind. Two of the major problems, particularly in developing countries, are (a) lack of sufficient scientific information for the assessment of risks entailed by the use of a great number of chemicals, and (b) lack of resources for assessment of chemicals for which data are at hand.

19.1 化学品の多用は世界の共同体の社会的経済的目的を達成するために不可欠です。今日、もっともうまくいっている事例によって、化学物質は費用効果のある方法で、そして、非常に安全な方法で広く使用できることが明らかになっています。しかしながら、持続可能な発展と人の生活の質の向上という理念のもとで、環境にとって有害な化学物質を健全に、確実に管理するためにはやらなければならないことがまだたくさんあります。大きな問題が二つあります。 特に発展途上国で問題です。 a) 一つは多種類の化学品を使用することによってもたらされるリスクを評価するための科学的な情報が十分でないということであり、b) 今一つはデータが手元にあっても化学品の評価をするための資源が足らないということです。

2. 二つの課題

課題が二つあるといっています:

a) 化学品の使用取扱に伴うリスクを評価するための科学情報の不足と b) データがあってもそれを評価するための資源の不足です。 それらが、発展途上国で顕著であるといっているわけです。

この段落の理解のポイントとして二つ挙げます:

  1. aでは、「化学品の科学的情報が足りない」と言っているのではなく、「化学品の使用取扱いによってもたらされるリスクを評価するための科学的情報が足りない」言っていることです。
  2. bでは、「資金が足りない」といっているのではなく、「資源が足りない」と言っているということです。

3. 情報不足―化学品の使用取扱いによってもたらされるリスクを評価するための科学的情報の不足

aでは、「化学品の使用取扱」による悪い影響がもたらされる可能性(リスク)がどんなものであるか理解するのに必要な情報が足りないと言っているのであって、単に化学品の情報が足りないと言っているのではないということです。

その情報とは、人や環境に及ぼす、化学品の使用取扱によって引き起こされるリスクを評価するために必要なものだというのです。

ある化学品が人や環境に悪い結果をもたらすのは単にその化学品の危険性(ハザード)によって決まるわけではなく、その化学品をどのように使うかで決まります。 たとえば、誰もが人にとって安全で有害でないと思っている水ですら、過剰な摂取により水中毒(water intoxication, water poisoning)と呼ばれる症状を引き起こします。東京マラソンの公式のサイトでランナーに水の摂取不足による熱中症とともに過剰摂取による水中毒に注意を呼び掛けています(http://www.tokyo42195.org/marathonman2013/healthcare_bn01.html)。

つまり、どんなものであれ、適切に取り扱わなければ危険である、リスクがあるということです。 後に具体的に述べられていますが、製造国では許可されていない使用取扱いが発展途上国で実施されていることについて言っています。つまり、特に発展途上国では 安全な使用取扱いの情報(リスクのある使用取扱い情報の裏返しですが)が不足しているということです。

無論、その化学品が持つ本質的な危険性(又は有害性)、ハザード情報もまた重要です。 その化学品が本質的に潜在的にどのような影響を与える可能性があるかによって、安全な使用取扱いの範囲が決まってくるわけですから。 このハザード情報についても後に具体的に述べられています。

4. 資源不足―化学品の使用取扱いによって引き起こされるリスクを評価するための資源の不足

bでもう一つ不足しているとしているのが、化学品の使用取扱リスクを評価するための資源です。 このことについてはAgenda 21 19章の後ろの方で詳しく述べられることになります。

ここで単語resourceの意味するものに注意が必要です。 これは「資源」のことで、「資金」に限りません。そう訳してしまうとこの後の文を理解できません。

もともとresource(資源)の意味は何でしょうか。 例えばoxford dictionaryでは次のように記載されています:

“(usually resources) a stock or supply of money, materials, staff, and other assets that can be drawn on by a person or organization in order to function effectively:local authorities complained that they lacked resources” http://www.oxforddictionaries.com/definition/english/resource?q=resource

つまり、「人や組織が効果的に機能を果たすために、あてにできるお金や材料、職員などであって、備えや補給品で後に役立つもの」というわけです。例文は、「地方当局は自分たちには使えるもの(資源)がないと不満を述べた」というわけです。

P.F. Drucker (Management: Tasks, Responsibilities, Practices. Haper Collins e-books, 第4章 Dimensions of Management, 1 Purpose and Mission, Paragraph 6)もこう言っています:

“The second task of management is to make work productive and the worker achieving. Business enterprise (or any other institution) has only one true resource: man.

「管理(management –経営と訳してもよい)の二番目の機能はその機構の作業の生産性を高め、そこで働く者が成就できるようにすることである。 企業(あるいは、いかなるほかの機構であれ)それが持つ真の資源は「人」だけである。

Agenda 21では、後で読むことになりますが、19.21 (c)では、Human resource development (人的資源開発–つまり人材の育成)の必要性を指摘しています。 化学品の良い管理(sound management)のためには、人が資源として重要で、あてにできる人材が不足していて、その育成が必要だといっているわけです。

次回は19.2で現在の課題について具体的に述べている内容を見てみます。