Dangerous と Hazardous

REACHやCLPの関係文書を読んでいるとDangerousとHazardous という二つの言葉が出てくる。これは意味がどう違うのだろうか?

結論から言ってしまえば、同じである。ただ、歴史的な意味がある。

欧州労働衛生局(EU-OSHA)のウェブサイトにCLPについて解説しているページがある:

https://osha.europa.eu/en/topics/ds/clp-classification-labelling-and-packaging-of-substances-and-mixtures

ここを見ると、

New terms have replaced old ones:
mixtures for preparations
hazardous for dangerous
precautionary statements for safety phrases
signal Words (e.g. Danger, Warning) replace the indications of Danger

と書かれている。

つまり、dangerousは、hazardousに置き換わっただけということである。 たとえば、DSD、CLPの条文でいわゆる「危険物リスト」は、

“a list of dangerous substance” (DSD Annex I)

“List of harmonised classification and labelling of hazardous substances” (CLP Annex VI).

このdangerous substanceとhazardous substanceは概念的に違わないというわけだ。

この二つの言葉、その他の言語(調べた限りであるが)では変わっていないのである。たとえば、フランス語では、<<une liste des substances dangerouese>>、<<Liste des classifications et des étiquetages harmonisés des substances dangereuses>>であり、dangerous (hazardous)に相当する言葉に変更はないのである。

だから、日本語でも従来通り「危険(有害)物リスト」と訳しておけば良い。

なぜ、このような変更行われたか想像するに、GHS策定の過程でdangerousとhazardousの語が調和されたのだと考えてよさそうだ。GHS作成に関わった主要国の中で英語だけが米英二カ国おり、また、英語ベースで議論が行われたからだろう。GHSのベースとなっている国際危険物輸送に基づく、危険物(輸送危険物)を米国ではhazardous material と呼んでいるのに対して、英国ではdangerous goodsと呼んでおり、この二つの用語を調和させ、hazardousとしたのであろう。

しかし、現在EUではDSD/DPDの化学品管理システムからREACH/CLPへの移行過程である。したがって、REACH/CLPでは歴史的な意味でDSD/DPDのものについては従来通りdangerous substanceと書いていると考えたほうが良い[1]。

ただし、これはREACH/CLPの文脈の話であり、dangerous云々という言葉はそれ以外の文脈で多用されてきているのでこれが大きく変わることは無いかもしれない。

 

脚注

1. hazardous materialが、dangerous goodsと同義であることは次のことからもわかる。英語版Wikipediaで、hazardous materialで検索するとdangerous goodsにリダイレクトされる: https://en.wikipedia.org/wiki/Hazardous_material

2011年1月25日 ECHA/EU-OSHA, ETUC/IndustriALL Europ REACH曝露シナリオキャンペーン

2011年1月25日付 EU化学物質庁のニュースによれば、

EU化学物質庁(ECHA)、欧州労働安全衛生庁(EU-OSHA)は、欧州労働組合連合(ETUC)とIndustriALL欧州労働組合(IndustriALL Europe)の労働者のためのREACH情報キャンペーンに協力しています。

そのキャンペーンの目的は、REACH曝露シナリオの理解を図り、危険有害な物質(hazardous substances)を間違いなく安全に使用し、企業が取扱るためのステップを取ることを促すものです。この義務は、いわゆる化学会社だけに課せられた義務でなく、危険有害な物質を使用取扱を行う企業一般が対象であるということの理解が重要です。 

REACHは、多くの物質の供給者に安全な使用取扱条件を記載した曝露シナリオを安全データシート(いわゆる(M)SDS)に添付することを義務付けており、この曝露シナリオ添付安全データシート(拡張安全データシート eSDS)は、REACH新機軸の主要なポイントであり、労働者の化学物質の安全を守るための核となるものです。

まだまだREACHの義務に対する企業の認識の普及が進んでいないため、このキャンペーンが展開されているようです。

この四者は連名で2ページのリーフレットを発行しREACHについて準拠すべき企業の義務を簡潔に説明しています。概要を記載します: 

企業は次のチェックをまずしなければなりません:

  1. 物質の自社の使用取扱がeSDSに記載されている使用取扱に含まれているか。
  2. もしそうであるなら、自社の使用取扱条件が曝露シナリオの使用取扱条件に適合しているか。

1. 2のいずれかが否であれば、次のいずれかの行動を企業はとらなければなりません。

  1. 供給者に言って、自分の使用取扱条件をeSDSに加えてもらう。
  2. 自社における使用取扱条件をeSDS記載の使用取扱条件に合わせる。
  3. 自分の使用取扱条件に適合する別の供給業者を探す。
  4. REACHが要求する化学安全アセスメントを自分で実施する。供給者が提供するeSDSに記載の使用取扱条件(=曝露シナリオ)は化学安全アセスメントの結果として作成されたものでなければならない決まりになっています。

ECHAはREACHが第一義的には化学物質の製造と輸入業者に要求される化学安全アセスメントとその結果としてのSDS用曝露シナリオを作成をREACHに準拠して楽に作成できるようにChesarと呼ばれるツールを開発し無償で企業に提供しています(このツールはREACH登録の書類作成にも役に立ちます。eSDS用曝露シナリオのの生成そのものをこのツールで行えるようになるのは2013年はじめと計画されています。)。

EUの労働安全衛生法体系 – REACHでない

しばしば日本の化学関係者の間では日本の労働安全衛生法に対応するEUの法体系は欧州化学物質庁(ECHA)所管のREACHであると単純化して理解されているふしがある。おそらくEUの化学物質管理が「REACHへと統合された」との一般的理解からであろう。しかしこの理解は不十分である。

欧州には日本の労働安全衛生法に対応する別の法体系がある。それは:

  • フレームワーク指令 89/391/EC と、
  • その「娘指令群」(daughter directives)である。娘指令群―つまり、フレームワーク指令を基本とし、その、具体化をした個別の指令、副指令である。

その所管は欧州労働安全衛生庁(EU-OSHA)である。

フレームワーク指令とその副指令群には多数のテーマがある:

  • 最低限の安全と健康の要件
  • 人保護具、および、
  • 化学因子、物理因子、及び、生物因子の曝露に係るリスクから労働者の保護。

化学物質に関して言えば、副指令の主要なものは次の二つである:

  • CAD: Council Directives on the protection of the health and safety of workers from the risks related to chemical agents at work (98/24/EC)
  • CMD: Council Directives on the protection of workers from the risks related to exposure to carcinogens and mutagens at work (2004/37/EC).

EU-OSHAはREACHとこのEU労働者安全衛生法体系の間の関係について簡単な手引きを発行している:

Guidance for employers on controlling risks from chemicals―Interface between Chemicals Agents Directive and REACH at the workplace

【関連情報】