GHSは、化学物質の分類と表示と包装に関する国際的に調和したシステムであるが、そのタイトルには含まれていない重要な要素がある。それが、SDS (安全データシート)である―タイトルの「表示」にはラベル以外にSDSの意味が込められているのだが。
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Danger とHazard [1/2]
以前、Dangerous と Hazardousという記事で書いたように、EUにおける化学物質規制の下では、同じ意味だ。 ここでは改めてそのことを確認したい。まず、それを理解するために必要な三つの要素について簡単に説明する。
CLP/REACH規則(新法)とDSD/DPD指令(旧法)
EUは2006年発行のいわゆるREACH規則と2008年発行のいわゆるCLP規則によって、化学品規制をEU全域に適用される共通の法とし、それを執行する機関としてECHA(欧州化学庁, 欧州化学機関とも訳される)を設置した。それ以前は、DSD指令/DPD指令及びその他の少なくない指令例えばSDS指令と呼ばれる指令に基づいて各国で法制化と執行が行われていた。この移行は先の二法(regulation)の施行から2018年にかけて暫時行われた。
塩化水素は呼吸器感作性か?―3. 職業・環境アレルギー学会情報
要約
政府は現時点で塩化水素を、呼吸器感作性物質、すなわち、免疫機構により特異的に気道過敏反応を引き起こす物質としている。その根拠の一つは、政府の分類の指針に記載されていた日本職業・環境アレルギー学会に2004年に提出された職業性アレルギーの感作性化学物質リスト案文である(日本職業・環境アレルギー学会雑誌. 2004年. 12(1):95-97)。同学会は、2013年と2016年に「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン」を刊行した。この書籍は非常に信頼性の高い記述となっている。そこからは塩化水素が外れている。政府の次の分類見直しにおいては、学会案文に代わってこれらの学会の公式ガイドラインを根拠に塩化水素の呼吸器感作性分類を当然外し、非免疫性気道刺激性の考慮として「特定標的臓器毒性(単回ばく露)」の記載の微修正が期待される。
塩化水素は呼吸器感作性か?―2. 現在の呼吸器感作性分類根拠の問題点
塩化水素は呼吸器感作性ではない
要約
塩化水素は呼吸器感作性に分類できない。政府が2015年に実施したGHS分類で、呼吸器感作性に分類している根拠は、 1)日本職業・環境アレルギー学会の分類、2) ACGIHが文書に記載している塩化水素への暴露の症例である。しかし、1) 同学会は現時点では塩化水素を呼吸器感作性に分類していないし(日本職業・環境アレルギー学会監修 (2016) 職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016)、2) ACGIHもその暴露症例でもって(呼吸器)感作性に分類していない(ACGIH 2003 TLV® and BEI® based on the Documentation of the Threshold Limit Values for Chemical Subastances and Physical Agents & Biological Exposure Indices 2003 とそのHClに関するDocument, ACGIH 2000)。その暴露事例の原論文でもその症例を「非感作性」への分類を提案している(Boulet, L. P. (1988). Increases in airway responsiveness following acute exposure to respiratory irritants: reactive airway dysfunction syndrome or occupational asthma?. Chest, 94(3), 476-481.)。
塩化水素(塩酸)は呼吸器感作性か? ―1.現状
国際的にGHS分類に差
日本政府によるGHS分類結果では、塩化水素を呼吸器感作性としている。経済産業省所管の製品評価技術基盤機構(NITE) GHSサイトや、厚生労働省 職場の安全サイトには2018年1月23日現在そのように記載している。これに対して、EUでは塩化水素を呼吸器感作性に分類していないことがECHA(EU化学品庁)のサイトで確認できる(2018/1/23現在)。国や地域によって塩化水素の性質が変わるわけではないから(危険性・有害性は物質固有の性質)、これは、塩化水素の呼吸器感作性の分類基準が国によって異なるということだ。
GHSは分類基準と方法に関する国際合意であるので、分類方法があいまいなのかもしれないし、解釈に違いあるいは問題があるのかもしれない(これについては近い将来議論する)。もっとも、GHS上、国際輸送危険物の分類結果とは異なりGHS分類結果そのものは、各国の案件であるので、結果が異なることはGHSに反することではない。
国内的に分類に差
日本では、試薬として塩化水素の水溶液である塩酸を販売している大手試薬メーカが、そして、一部の最大手化学会社でも、塩酸のSDS中で、GHS分類として呼吸器感作性としている。一方、塩酸の主要製造メーカーは、軒並み塩化水素及び塩酸を呼吸器感作性に分類していない―軒並みそうなのはソーダ業界として標準SDSを作成しているためだ。もっとも、日本のGHSの法的実装では、政府による分類結果に企業は従わなくてもよく、また、各企業の責任になっているので法的には全く問題ない (2018年1月23日現在)。しかし、それを見たユーザは混乱するおそれがある。