翻訳用語集 混合物 Mixture 

mixtureは一般的な辞書では次のように定義されている:

(technical) a combination of two or more substances that mix together without any chemical reaction taking place
(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)

これはREACH/CLPにおける次の定義とさしてかわりない:

‘mixture’ means  a mixture or solution  composed  of two or more substances;
(CLP規則 第2条8)

しかし、substanceが純物質でなく、

‘substance’  means  a  chemical  element  and  its  compounds  in  the natural state or  obtained  by  any  manufacturing  process,  including any additive  necessary  to  preserve  its  stability  and any impurity deriving from  the process  used,  but excluding  any solvent which may  be separated  without  affecting  the stability  of the substance  or changing its  composition
(CLP規則 第2条7)

と定義されていることに留意する必要がある。

そう定義すれば、REACH/CLPの文脈でsubstanceは純物質に限らないし純物質の(一般的文脈での)混合物は(REACH/CLPの文脈での)混合物では必ずしもないということになる。

そもそもCLP規則の「混合物」の定義文にはこの異なる文脈での「混合物」が使われている。
 最初の”mixture”はCLP/REACHのmixtureであることは疑う余地がないが、後者の”a mixture”は一般的なmixtureといえる。後者を関係代名詞節により、REACH/CLPの「物質」を使って限定しているわけだ。この mixtureに付いているaは、定義の異なるmixtureがあることを示している。

このように考えると、REACH/CLPの「混合物」は人為的に混ぜたものと理解して大筋問題はなさそうだ。そう理解して違いが出るのは、物質の安定剤を人為的に混ぜたケースである。

米国の化学教育ではMixtureをどのように教えているだろう。ある米国の高校化学参考書では、Matter(物)はpure substanceとmixtureの二つに分けられるように教えている:

In this section, I discuss how all matter can be classified as either a pure substance or a mixture (see Figure 3-2)

(Chemistry For Dummies ®, 2nd Edition)

これは日本の高校化学での教育と変わらない。

二種類以上の違った物資がまじりあう現象が混合であり、混合の結果生じたものが混合物である.… 一種類の分子だけが集まってできている物質を純粋な物質という.自然界にある物質は混合物であることが多く、純粋な物質がそのまま存在することは少ない.(東京書籍 1972 新訂化学B)

結局、REACH/CLPのMixture、そしておそらくTSCAのそれの理解には「文脈」の理解が重要ということだ。

【Chesar 2 翻訳用語集】物品 article

【Chesar 2 翻訳用語集】 article 物品

2014.2.5 Biocide関連情報を追加
2014.2.7 Biocide関連情報をさらに追加
2014.2.26 リンクの一部、CLP, オレンジブックを修正。翻訳部分の一部、CLP序文の翻訳をハイライト

1. REACH規則/CLP規則/バイオサイド規則上の用語定義

articleは、REACH規則第3章9とCLP規則第2章9で次のような同じ定義がなされている:

“article: means an object which during production is given a special shape, surface or design which determines its function to a greater degree than does its chemical composition;”

訳すと、
物品(article)は、その外形表面、及び、意匠(デザイン)が製造の過程で決まる物であり、その機能が化学的組成よりも外形表面、及び、意匠によって決まるの物である。

「直訳」では正しく理解できるとは思えないのでここではもとの英文の構造をそのまま日本語にするのではなく、正しく理解されやすいように訳している。

REACH規則とCLP規則で、定義を一致させることについてCLP規則前文(Whereas)にわざわざ記載している(参照 注1)。

1.2 バイオサイド規則中の”article”

1.2.1 バイオサイド規則第3条定義第2項には次のようにある:

2. For the purposes of this Regulation, the definitions laid down in Article 3 of Regulation (EC) No 1907/2006 shall apply for the following terms:
(a) ‘substance’;
(b) ‘mixture’;
(c) ‘article’;
(d) ‘product and process-orientated research and development’;
(e) ‘scientific research and development’.

つまり、REACH規則(Regulation (EC) No 1907/2006 )とバイオサイド規則(Regulation (EC) No 528/2012) のarticleの定義は同じだというわけだ。

1.2.2 また、バイオサイド規則の前文には、

(l) ‘treated article’ means any substance, mixture or article which has been treated with, or intentionally incorporates, one or more biocidal products;

と記載されており、treated article(処理物品)とは、一つ以上のバイオサイド製品で処理されている、すなわち、意図的に組み込まれている、物質(substance)または混合物(mixture)、物品(article)のことというわけだ。 ここで「物品」は「物質」、「混合物」、「物品」の3つの形態に分けていることも注意したい。この三つの区別は、欧州の化学品規制(REACH, CLP, バイオサイド)に共通して概念上、実務上きわめて重要である。

1.2.3 一方、バイオサイドの処理物品(treated article)について、次のような説明も行われている:

Definition of “treated articles” :
— Substance, mixture or article, i.e., not only articles within the meaning of the REACH Regulation

つまり、処理物品は、REACH規制対象となるような物品だけでなく、物質、混合物である場合があるということだ(ECHA 2013 Control of treated articles in Boicidal Products Regulation, ECHA Biocides Stakesholders’ Day, 25 June 2013, p.3)

この記述と1.2.1 又は1.2.2 の記述とは、一見矛盾しているようにも思えるが、次のように考えてみたがどうだろう。

C01 Article
C02 .Substance
C03 ..Mixture

の階層的概念でありその境界にも違いがないことはREACH, CLP, バイオサイドで共通しているが、BPR treated articleの規制対象は、Articleの全階層すなわちC01(+C02+C03)であり、REACH articleの規制対象はC01の階層のみである。定義は違わないが規制対象が違うということだ。

2. 別の訳語

articleの訳語としては物品以外にも次の訳語も多く使われている: 成形品、成型品、アーティクル.

REACHやCLPを理解するのに役にたつ解説書籍・文書はたくさんあるが、訳語が必ずしも一貫していないので欧州の化学規制の初学者はこのことを頭の片隅に置いておく必要があろう。

3. 注

注1 CLP規則前文

CLP規則((EC) No 1272/2008) の前文(Whereas)の(12)には次のようにある:

(12) The terms and definitions used in this Regulation should be consistent with those set out in Regulation (EC) No 1907/2006 of the European Parliament and of the Council of 18 December 2006 concerning the Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals (REACH) ( … ), with those set out in the rules governing transport and with the definitions specified at UN level in the GHS, in order to ensure maximum consistency in the application of chemicals legislation within the Community in the context of global trade. The hazard classes specified in the GHS should be set out in this Regulation for the same reason.

(12) この規則で使用される用語と定義は, 化学物質の登録と評価、認可、制限に関する2006年12月18日の欧州議会と欧州連合理事会の規則(EC) No 1907/2006 (REACH)で規定されている用語と定義、輸送を規制する規則で設定されている用語と定義、GHSにおいて国連レベルで決定されている定義で設定されているものと一致するものとする。 そうする目的は、世界貿易において、共同体内で化学品に関する規則を最大限一貫性をもって適用することである。 GHSで特定される危険有害性クラス同じ理由でこの規則で設定されるものとする。

したがって、CLP規則輸送を規制する規則GHSにおけるarticleの用語や定義は一致するということである。 ここで、輸送規則とは「国際連合経済社会理事会危険物輸送及び分類調和専門家委員会の勧告」(オレンジブック)をおおもととする国際的に調和されている輸送物の規則群のことである。 ただし、具体的には、輸送規則中articleとされるものが、CLP/REACHではarticleでない場合もあるようだ。

注2  訳語 成型品と成形品

日本語の「成形品」や「成型品」は、かならずしも、REACH/CLPのこのarticle (物品)の定義と一致しないので注意が必要である。

国際特許分類

たとえば、国際特許分類 IPC第8版日本語訳には「成形品」という言葉がたくさん出てくる: たとえばIPCコードのサブクラス B29K 、B29Cは、

「成形材料用の組成物;成形品の条件,形態,または状態」

「プラスチックの成形または接合;可塑状態の物質の成形一般;成形品の後処理,例.補修」

となっているが、対応する英語は、

Compositions for moulding materials; Condition, form or state of moulded material

SHAPING OR JOINING OF PLASTICS; SHAPING OF SUBSTANCES IN A PLASTIC STATE, IN GENERAL; AFTER- TREATMENT OF THE SHAPED PRODUCTS, e.g. REPAIRING

である。 成形品に対応しているのは、”moulded material”, “shaped products”である。

ちなみに、B29C 34/02 には、articleの語が使われていて、その訳語には、「物品」が当てられている:

· of articles of definite length, i.e. discrete articles (WIPO IPC)

その公式の訳語は、

· 一定長の物品,すなわち.不連続物品,の圧縮成形 (特許庁 パテントマップガイダンス)

技術用語辞典

多くの技術用語辞書では「成形品」の語には、moulded (=molded) … の英語しか出てこない。たとえば、Weblioで検索すれば確認できる。

「成形品」の訳語をつかってもよいかもしれないが、読者に誤解のないように解説しておく必要があるだろう。 このmoldには、「成型品」の漢字を適用し、「成形品」と区別するとの見解もあるようだが、多くの文書で、「成形品」と「成型品」が使い分けられているとは思えないことが多い。