ECHA IUCLID報告書作成アプリの新バージョンをリリース

2014年1月31日 ECHAはIUCLID報告書作成アプリ(IUCLID Report Generator)の新バージョンをリリースした。

http://iuclid.eu/index.php?fuseaction=home.news&type=public&id=68

新らしくリリースしたIUCLID Report Generator (IUCLID報告書作成アプリ)によって、化学安全アセスメントと報告書作成ツールであるChesarによって生成される曝露アセスメント情報を対応するIUCLIDセクションに取り込むことができる。

この更新版によって、IUCLIDユーザは、Chesarを使用して曝露アセスメントデータを生成すれば、その情報をIUCLID(セクション3.7.1と3.7.2)に出力できる。これを使えば、 IUCLIDとChesarの二つのツールの間でデータを同期させて化学安全報告書全体を生成するのに必要な、様々な手順を踏みやすくなる。

更新された機能についてはリリースノートに記載されている。 本アプリ導入用の説明書(Installation manuals)は導入用パッケージに含まれており、そのパッケージはIUCLIDウェブサイトからダウンロードできる。

この IUCLID報告作成アプリは、REACHにおける化学安全報告書(CSR)の作成を支援し、従来のCSRプラグインに置き換わるものとなる。また、バイオサイド製品認可申請書用の製品特性要約(summary of product characeristics SPC)を申請者が作成するのにも役に立つ。

川下ユーザはREACH SDSをどう使うか

川下ユーザはREACH SDSをどう使うか

2013年8月にリリースされたECHAのNews Letter (August Issue 4) の記事What to do when receiving an extended safety data sheet? (拡張安全データシートを受け取った時何をすべきか) はある欧州川下使用取扱企業(DU)の具体的事例が記載されていて興味深い.―その企業Borealis(ボレアリス)社は,自社でSDSを受け取った時に内部で使用している”eSDS Evaluation tool” (excel book)を自身のウェッブサイトで公開している.

ボレアリス社は,世界に約5300人の従業員を抱え,2012年総売上高 75億ユーロ(1兆円弱 1円=132ユーロとして)のヨーロッパの石油化学大手企業である.フェノールなどの基礎化学品を製造供給していて,REACHにおける物質製造業者(Manufacturer)であるが,ポリオレフィン製品として自動車部品,食品などの包装材等も供給しており,REACHにおける川下使用取扱企業(Downstream User, DU)としての役割ももっている.

ボレアリス社は,2012年には,約 1 000 のSDSを川上業者から受け取っており,そのSDSの約10%が拡張SDSであったという.―その拡張SDS(Extended Safety Data Sheet, eSDS)の伝達とそれに基づく安全な使用取扱の実施は,REACHで導入された新たな義務である.eSDSは,EUがREACHの目標とする(そして,1992年のAgenda 21の目標とする)化学品のより安全な使用取扱(safety use of chemicals)を実現する強力なツールである.eSDSはGHSに準拠するEU SDS (REACH規則で規定されている)に,安全な使用取扱方法を具体的に記載した曝露シナリオ(Exposure Scenario)の添付ををもとめるものである.

つまり,ボレアリス社は,昨年100のeSDSを受け取ったということになる.

REACH規則はDUに,化学物質をそのESにそって使用取扱(Use)うことを求めており,ボレアリス社のその取組をこの記事で紹介してしている.―そのために使用しているExcel bookを自身のウェッブサイトで公開していて,だれでもダウンロードできる.

DUが行う受領eSDSに基づく作業

  • ステップ 1:  供給を受けている化学物質について自分自身の行う使用取扱(use)が,供給者の安全データシートでカバーされているかを確認する.
  • ステップ 2:  SDSに添付された曝露シナリオに記載されている労働作業条件(運転条件)を守っているかを確認する.
  • ステップ 3:  SDSに添付された曝露シナリオに記載されている リスク管理措置(Risk Management Measures, リスク管理方策)にあっているかを調べる.

適切で無い時には,REACHコンプライアンスのために新たな作業が発生する.このため,上流のこの曝露シナリオがDUにとって適切に記載されていることが,ビジネス上重要な意味を持ってくる.

求められる化学品供給者のSDSの内容の充実

そのため,欧州企業への化学品の供給業者にとってSDSの内容の充実がこれまで以上に求められることになってきている.このSDS,特に,それに添付されるESの内容について,欧州では化学品の供給者と使用取扱者が当局と協力してプロジェクトを組んでいることは別ページで紹介したとおりである.

2013年7月17日 ECHA CSR/ES強化の為のロードマップ発表

ECHA CSR/ES強化の為のロードマップ発表
曝露シナリオ(ES)は欧州における化学品の安全な使用取扱(use)を向上させる重要なツールである。 ESはREACH規則に基づいて,プロセスの一部である化学物質安全アセスメントの実施と作成の途中で作成される。ECHAと複数のステークホルダの団体は2013-2018の期間中に曝露シナリオの内容と使用を向上させるための計画を立てている.

すべてのステークホルダが誓約憲章(commitment charter)に署名して、その取り組みへの協力の約束することを推奨している。この署名は,そのステークホルダが供給網(supply chain)内で化学品の安全な使用取扱の条件に関する正確で明瞭な情報を作成し伝達することが重要であることを認識したことを意味し、このロードマップで示されたアクションの開発と実施を支援することも約束したことを意味するものもある.

アクション1:  ステークホルダの間での共通の理解の深化

CSRとコミュニケーション用ESの情報の目的について、ステークホルダの間で共通の理解を実現すること

アクション2: 化学安全アセスメント用の情報の提供

川下使用取扱者の使用取扱をアセスメントできるように、川下使用取扱者から登録者に提供すべき情報の特定

アクションをとる分野 3: ITツールと標準化

安全な使用取扱に関する一貫性のある情報を効率的に生成しコミュニケーションを容易にするITツールの開発

アクションをとる分野 4: 配合者への支援 — formulatorは調合者とも訳されている.

配合者の製品を安全に使用取扱う条件を、配合者が単一物質の情報を統合して作るプロセスを設定する.

アクションとる分野 5: 最終使用取扱者の支援

安全のためのアドバイスを絞り込んで提供するために、化学品の産業最終使用取扱と業務使用取扱にそれぞれ特有の必要性を解析する。

【解説】

産業最終使用取扱と業務最終使用取扱

REACHにおける化学物質の安全アセスメント(安全評価)においては、使用取扱(use)は、大きく、産業使用取扱(industrial uses)、業務使用取扱(professional uses)、及び、消費者使用取扱(consumer users)に分けられている。 professional usesは、人により「専門家使用取扱」と訳している場合がある。 業務使用取扱は業務用途と考えて良い(ただし、RAECHの文脈では産業用途とは区別する)。

REACHはEU市場(厳密に言えばEEA)で物質が生まれて(=製造/輸入)から、消滅する(=廃棄/他の物に変わる)までの、まさに、物質の生涯の全過程(=全ライフサイクル段階)での化学品の包括的な安全を追求するために、そのアセスメントを求めるものである。

このライフサイクル段階は、物質の使用取扱(use)の段階―先に上げたように、産業/業務/消費者使用取扱段階―の他に、製造段階、配合段階(formulation life-cycle stage)、物品取扱段階(service life stage)、廃棄段階に分けてしかも漏らすことなく(包括的に)安全アセスメントを求めている。 SDSへの添付が求められるコミュニケーション用のESでは問題となるのは,物質の使用取扱段階(及び廃棄段階)である.

関連サイト

ECHA 曝露シナリオ交換ネットワーク   ENES

 

関連記事

欧州業界団体SPERC ライブラ Chesarファイルリリリース開始へ

待望のChesar 2用のSPERCライブラリファイルが欧州業界団体からのリリースが始まった.

2013年4月8日時点でリリースを確認しているのは次の業界団体

A.I.S.E 欧州石鹸洗剤工業連合会

http://www.aise.eu/reach/?page=exposureass_sub4

Cosmetics Europe 欧州化粧品工業会

https://www.cosmeticseurope.eu/safety-and-science-cosmetics-europe/reach-and-chemicals/use-and-exposure-information.html

EFCC 欧州の建設用化学品業界団体

http://bauchemie.vci.de/wiki/SPERC_UseR_CC/Seiten/Content.aspx

FEICA  欧州の接着剤と封止剤の業界団体

http://www.feica.eu/ehs-sustainability/reach/feica-use-descriptors

各業界の状況は欧州化学工業連盟 (Cefic)の次のウェブ頁 のOverview table of associations activities (Excel) で随時要約公開されている:

http://www.cefic.org/Industry-support/Implementing-reach/Guidances-and-Tools1/

【解説】

そのほかの団体からも公開される予定のようだ.

この結果, Chesar 2 により, より現実的な曝露アセスメントの実施が容易となり, REACHの当局(ECHA)に提出が義務付けられてるCSR用曝露シナリオ, 及び, 供給網(supply chain)に流すことが義務付けられているSDS(拡張SDS)用曝露シナリオの作成の効率が格段にアップすることになろう.

どのような曝露シナリオが作成できるかはChesar 2.2をダウンロードし, 次の頁でECHAが公表しているChesar 2によるCSR実例を試してみることにより容易に理解できる.

http://echa.europa.eu/web/guest/support/practical-examples-of-chemical-safety-reports

【関連頁】

ECHA ENES情報を公開

化学物質(chemical)とその使用取扱(use)を管理する欧州の化学品規制であるREACHの重要な要件である曝露シナリオに関する知識, 技術, 手法に関する情報を交換するために, ECHAと経済部門(セクター)の団体 CeficやConcawe, Eurometaux, Fecc, A.IS.E, DUCCで構成されるENES(曝露シナリオ情報交換ネットワーク)に関する情報が公開されています.

曝露シナリオは「安全な使用取扱の記述」であり, REACHがリスクベースの規制にさらに踏み込んだ一つの象徴です.

このネットワークは2011年11月に第1回が開かれ, 2013年5月に第4回の会合が開かれるようです. この情報については次のECHAのページから閲覧できます.

http://echa.europa.eu/about-us/exchange-network-on-exposure-scenarios