REACHの’Use’

REACHにおけるUseについてあらためて考える。REACH規則はUseを次のように定義している。

Article 3 Definitions
For the purposes of this Regualations:

24. use: means any processing, formulation, consumption, storage, keeping, treatment, filling into containers, transfer from one container to another, mixing, production of an article or any other utilisation;

 

REACHに出会う前、Use [名詞]は、「用途」と理解していた。旧法DSD/DPD frameworkではUseを用途と訳して何の違和感もなかった。しかし、REACHのUseの定義(上記)を始めて見たとき、この定義はちょっと奇妙だと感じた。REACHのUseの定義文の中に含まれる、貯蔵・保存(storage, keeping)、移し替え(transfer from one container to another)を用途とはどう考えても言えないからだ。もしそうだとしたら、ガソリンの用途として、ガソリンスタンドで貯蔵することやガソリンスタンドで車にガソリンを入れることも含まれるということになってしまう。ひょっとして英語Useは日本語「用途」とニュアンスに差があるのかとも思っていたが、そうでもなさそうだ。通常のUseのニュアンスとこの定義は違っていると欧州の人も感じていたんだと次のCEPEの文書中の文からわかったからだ:

Common agreement amongst ECHA and industry has been reached that, for practical REACH purposes, “use” will be described in relation to how a substance is handled.

CEPE (2009) REACH: descriptors of use: coating and inks manufacture and application

REACHの実際の目的では、物質が取り扱われ(handle)方に関連して、”use”が記述されることになると2009年に産業界とECHAの間で共通の理解を得たとCEPEは上のように報告している。

理由は明快だ。Useの記述は、リスク評価に至る二つの評価―ハザード評価と暴露評価―の後者において結局暴露推計量に結びつかなければならないからだ。例えば、ある化学物質の製造後、小分けして転売する業務活動があるだろう。この小分け作業は用途とは通常言わない。しかし、機械的に遠隔で自動分注するという作業をするか、人手で分注するかで、作業を実施する者の曝露量は決定的に違ってくる。

しかし、なら”handling”として、”use”の語を使わなければよいのにとも思える。なぜ、”handling”でなく”use”としたのだろうか。handlingとしてくれれば、例えば、日本の化管法第1条の「化学物質の性状及び取扱いに 関する情報の提供に関する措置」という「取扱い」としっくりくるのにと思えた。

しかし、日本の法律が「取扱い」と書いてあるからhandlingとすべきとは言えない。では、なぜ、useとしてhandlingとしなかったのだろうか。それを説明してくれる文書は見当たらない。REACHを起草した人に聞きたいところだが、それもチャンネルがない。ただ、次のような想像が可能ではないだろうか。

“handling”でなく”use”とした理由(仮説) 1:旧法との連続性

旧法 DSD/DPDにおいて新規物質の届出(NONS Notification of New Substance)制度における術語 usesの一貫性。NONSは、REACHの登録に相当し、やはり、一定の試験の実施と報告とその他若干の情報の提出を各国当局に対して、製造/輸入者ごとに求めるものだった。その時、uses(用途)の記載が求められた。当時のusesは、まさに「用途」というのにふさわしい内容で、例えば、分散剤用とか、難燃剤用とか、REACHでいうTechnical Function さえ書けばよく、その内容はあまり問題とされなかった。DSD/DPD frameworkで、use情報を求めたので、REACHでもuses 情報を求めた。しかし、REACHではuseの内容について、暴露量推定に現実味を持たせるためにができるように大きな見直しが行われたため、用途(uses)ではなく、取扱い(uses)への内容は変わってしまった。以上はあくまで小生の想像である。

“handling”でなく”use”とした理由(仮説) 2: SDSとの整合性

SDS§7では、”handling and storage information” (保管・取扱い情報)の記載が求められる。この記述からすると、storage にはhandling が含まれない。したがって、SDSをも規定するREACH条文で取扱い情報を求めるのに”handling”としてしまったら、整合性が取れない。use = handling and storage ということで整合性をとった。これもまた小生の想像でしかない。

いずれにしろ、REACHで求めているuse情報は、その定義にあるようにstorage とhandling 情報である。

Useの構成要素:Contributing Activity

2017年にECHAがCSRの作成のための実施ガイダンスとして出したUseの記載方法に関する記述をにはこうある:

8. Each use such as manufacture, formulation and the various uses at industrial sites, by professional workers or by consumers may consist of a number of contributing activities. For example, a manufacturing use could have one contributing activity for the environmental emissions and several contributing activities for worker activities such as material transfer, dis/charging vessels, carrying out chemical reactions and the cleaning and maintenance of equipment.

製造(manufacture)、配合(formulation)、及び、使用(use)―例えば、工場での様々な使用、あるいは、業として作業を行う者(professional workers、職業人・労働者・個人事業者)による、又は、消費者による種々の使用―は、多数の作業単位(contributing activities 訳注: 一つのUseを構成する活動・作業 , 直訳すれば「寄与作業」というところ)からなる。たとえば、製造のための一使用は、環境排出に関する単一の作業単位(one activity)と労働者の作業に関する複数の作業単位(activities)からなる;この労働者の作業単位には、例えば、物質を移動させること、容器へ入れたり、容器から出したりすること、化学反応を実施すること、装置を清掃したりメンテナンスを実施したりすることなどがある。

ECHA (2017) An Illustrative Example of a CSR. Part 1: Introductory Note with advice on preparing your chemical safety report. Reference: ECHA-17-H-03-EN, ISBN: 978-92-9020-045-1 page. 9

contribute [synonym] play a part in, be a factor in (LEXCO powered by OXFORD) contributies activityは、一Useを構成する作業のことである。

図 Useとそれを構成する作業単位(Contributing activity)

このactivityの一つ一つにUse Categoryの一つが対応することになる。Activity (Environment)にはERC(又は、spERC)が、WorkerのActivityには、PROCなどである。この作業単位の一つとして容器の移し替えがあるわけだ。そしてその有り様でそのuseに関わる曝露量が違ってくるというframeworkになっている。

補注

Contributing activity 作業単位(寄与作業)

ECHAがリリースしている化学安全アセスメントとその報告書作成ツールであるChesarでは、Contributing acitivity に対応した Contributing Scenario を作成する。

1 Use を記述するための暴露シナリオはそれの構成要素として少なくとも二つの作業単位シナリオ Contributing Scenarioから構成される。1 Use は、少なくとも2つの作業単位(Contributing Activity 直訳すれば、寄与作業)から構成されている。

一つは環境暴露評価用であり、今一つは、人暴露評価用である。