物質の定義と分類 -REACH/CLPの場合 2a

物質の定義と分類―REACH/CLPの場合 1」では、REACH/CLPフレームワークでの物質の定義を見た。ここでは、同フレームワークでの混合物の定義を見てみる。

混合物の定義

混合物の定義はすっきりしたものだ。 しかし注意すべき点がある。 

REACH規則定義条項第3条の二番目に記載されている。

2. ►M3 mixture ◄: means a mixture or solution composed of two or more substances;

REACH規則 consolidated version (02006R1907 — EN — 01.12.2018 — 039.001 )

この文自体を見たときには一般化学フレームワークの定義と何ら変わりがないように思える。二つ以上の物質で構成される混合物または溶液であるといっているのだから。しかし、この一文がREACH/CLPフレームワーク内での話であることを忘れてはいけない。この「物質」は、第3条1項に言う物質である。第1項に言う物質とは、

(b) substances, on their own, in a ►M3 mixture ◄ or in an article, which are subject to customs supervision, provided that they do not undergo any treatment or processing, and which are in temporary storage, or in a free zone or free warehouse with a view to re-exportation, or in transit;

REACH規則 consolidated version (02006R1907 — EN — 01.12.2018 — 039.001 )

一般化学フレームワークでは、日欧にかかわらず、混合物とはあくまで物質の一形態であった。物質をもう分けれないところまで分けたとき残ったものが純物質で残りの物が混合物であった。純物質とは単一の分子からなるものと物質の粒子説に基づいて教わったはずだ。REACH/CLPフレームワークでは、純物質という言葉は出てこない。純物質と言うのは、あくまで、モデル的な、現実にはほとんど得ることができないものと考えてもよいだろう。

REACH/CLPフレームワーク上は、混合物は物質でない。

しかし、現実の世界を対象とするREACH/CLPフレームワークでは、混合物(mixture)は、物質(substance)でないとされる。substanceとは、第3条(1)で定義されているsubstanceであって、一般化学の物質の定義とは少々違う。これを踏まえて混合物の定義を理解しないといけない。そして、これが肝なのだが、条文には明記されていないが、REACH/CLPフレームワーク上では混合物は物質でないということだ(ECHA 欧州化学品庁の説明にはある)。

単(一)物質(?) ― 日本のSDS

日本では、しばしば、「単(一)物質」と「混合物」に分けることが行われてきている。特に、(M)SDSにそのような記載が多々見られる。当局もそのような言葉をいまだに使っている(厚生労働省 職場の安全サイト https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds_label/label_howmade.html ) 

「単一物質」の語は、さかのぼって調べると、ある書籍(労働省安全衛生部編 改訂 わかりやすい化学物質の危険有害性表示制度 平成12年)によれば、労働省労働基準局長名の基発第394号(平成4年7月1日)、「化学物質等の危険有害性等の表示に関する指針について」の別添1に記載がある(官報の記録ではその別添は見当たらないが…)その定義を探したが今のところ見当たらない。

筆者に聞かなければはっきりとしたことはわからないが、「混合物は物質(の一形態)である」という一般化学のフレームワークの考え方(idea)、中高で習った考え方に縛られて、混合物でない物質を表すために「単一物質」という言葉を使っている場合があるようだ。であれば、「単一物質」の語は、REACH/CLPフレームワーク上のsubstanceの訳語でなければならない。そして、GHS訳文においてもしかりである。そうしなければ筋が通らない(このブログの著者はそうすべきとは思ってはいない。逆に、単一物質という言い方を避けるべきと考えている)。

しかし、日本の英語版SDSでは、”single substance”と記載していたりしてややこしい。

SDSは、日本であれ海外であれ、一定の要件を満たす物質とそれを含む混合物について作成が求められる。このstatementにおいて、物質の定義がREACH/CLPフレームワークであろうと、一般化学のフレームワーク上であろうと違いは起こらない。しかし、日本のSDSにおける物質定義も混合物定義も国際的なGHS定義と変わらないものになったのだから、「単一物質」と混合物の区別の記載というのは定義の変化についていっていないか、フレームワークを混同した結果のようだ。

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