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Danger とHazard [1/2]

2018年3月16日
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以前、Dangerous と Hazardousという記事で書いたように、EUにおける化学物質規制の下では、同じ意味だ。 ここでは改めてそのことを確認したい。まず、それを理解するために必要な三つの要素について簡単に説明する。

CLP/REACH規則(新法)とDSD/DPD指令(旧法)

EUは2006年発行のいわゆるREACH規則と2008年発行のいわゆるCLP規則によって、化学品規制をEU全域に適用される共通の法とし、それを執行する機関としてECHA(欧州化学庁, 欧州化学機関とも訳される)を設置した。それ以前は、DSD指令/DPD指令及びその他の少なくない指令例えばSDS指令と呼ばれる指令に基づいて各国で法制化と執行が行われていた。この移行は先の二法(regulation)の施行から2018年にかけて暫時行われた。

REACH規則では製造輸入物質の届け出ルールが決められ、その際当局に提出必要のある化学品の安全評価文書(CSR)作成要件、そして、ユーザに提出する安全データシート(SDS)の要件が定義された。CLP規則では化学物質の危険性を分類、表示、包装(容器)の規制要件が定義された。

GHS

一方、これに関してこの間国際的な動向として、GHSという世界共通の危険な化学品の分類と表示の標準が国連のもとで作成され2003年にその初版がリリースされた(最新版は改訂第7版)。EUではGHSの分類と表示はCLP規則で、GHSで定義されたSDSの要件はREACH規則で具体化された。GHSは米国でも採用されている(アジア各国、そして、日本でも採用されている)。

国連危険物輸送モデル規則

GHSは、労働や消費の分野でも適用されているが、実は、輸送の分野では世界的にずっと以前から統一した分類が行われている。やはり国連の下である。国連危険物輸送モデル規則勧告とよばれ、それに基づいて各国は法律を立案している。航空輸送、海上輸送の危険物リストは世界中共通のものをベースにしている。日本は例外であるが、道路や鉄道の輸送も同じモデルに基づいて世界中で運用されている。

背景事情の三つの核となる要素をすべて説明したので、Dangerous と Hazardousの概念に戻ろう。EUでの化学品の規制は、DSD/DPD から、CLP/REACHに移行したと言ったが、旧体制ではDSDに危険物リストが載っていた。新法ではCLPに危険物リストが載っている(ここで危険物とは、有害物質を含む概念として言っている)。

旧法と新法における危険物の各国語表現

その危険物リストにおいて、EUの各国の言葉で「危険物」はどう表現されているか、旧法DSD指令と新法CLP規則でいくつか比較してみよう。下表のように、旧法であるDSDでは、英語では”dangerous substances”と記載されてた。一方、新法では、”hazardous substances and mixtures”と記載されている。旧法では、mixturesは、DPD指令で規定されていた(mixture と呼ばずにpreparationと呼んでいたが)。

これだけをみれば、旧法では”dangerous substances”が規制の対象であり、新法ではそれとは異なり“hazardous substances”が規制対象となって、概念が違うように見える。しかし、その他の言語では変化がないことにを確認してほしい。フランス語でdangereusesが、dangereuxになったのは男性名詞に対応する語尾変化に過ぎず同じ語である。もし概念が変わったのなら、英語と同じように、他の言語でも言葉を変えるはずだ。

表 旧法と新法で危険物の概念は変わらない

言語 DSD DPD
英語 dangerous substances hazardous substances and mixtures
仏語 substances dangereuses des substances et des mélanges dangereux
独語 gefährlicher Stoffe gefährlicher Stoffe und Gemische
蘭語 gevaarlijke stoffen gevaarlijke stoffen en mengsels

dangerous からhazardousになったのは欧州と米国間の調和のため

ではなぜ英語では”dangerous substances”から、”hazardous substances”に変わったのだろうか。それはおそらく次の理由による。先に説明した3つ目の要素GHSの基になった、長い歴史のある国連危険物輸送における危険物とは国際的には”dangerous goods”という。一方、米国では、全く同じ意味でこれを”hazardous materials”と呼んでいる(欧米両者とも国連危険物輸送モデル規則に順じている)。世界的に共通化する(正確には調和するであるが)には欧州と米国の二極の合意が重要である。その欧州側には英国がいて、EUではほぼすべての言語が等しく公用語とはいえ、実際には英語が幅を利かしていて、英国がECに加盟する前から英語で文書が多く作成されていた。国際的に共通化するには、英語と米語での用語の統一が必要なわけだ。ここで、EUが米国に譲って、dangerous をhazardousに変えたというのが真相とみて間違いないだろう。フランス語でも、新旧法ともdangereuxのままだ。英仏辞典をみれば、英語のdangerもhazard も、フランス語ではdangerであることがわかる。表に示したように、ドイツ語でも、オランダ語でも同じである。記載していないがスペイン語でもイタリア語でも同じである。

米国の農務省のサイトに次のような文がある: ‘… the terms “hazardous materials” and “dangerous goods” are synonymous. Since this course focuses on IATA regulations we will use the term “dangerous goods” throughout this lesson.’ (https://aglearn.usda.gov/customcontent/APHIS-VS-101/pksp/intro/intro0024.html)

このIATAとは、国際航空運送協会のことで、JALやANAなど民間航空会社のほとんどが加盟している国際民間団体だ(北朝鮮の航空会社ですら加盟している)。IATAが出す規則DGRは国連危険物輸送モデル規則を基にしている。実務的には航空輸送ではDGRを見ることがほとんどだ。

また、米国運輸省およびカナダ運輸省が発行している「緊急時応急措置指針 2016」(2016 Emergency Response Guidebook)」には次のようにある: “For the purposes of this guidebook, the terms hazardous materials/dangerous goods are synonymous.” (https://www.phmsa.dot.gov/hazmat/erg/emergency-response-guidebook-erg) カナダでは、hazardous materialsよりdangerous goodsが一般的なんだろう。

また、英国車両型式認可機関(VCA)の文書でも次の記述がみられる:“Dangerous goods (often called hazardous materials in the USA) may be pure chemicals, mixtures of substances, manufactured products or articles which can pose a risk to people, animals or the environment if not properly handled in use or in transport.” (http://www.dft.gov.uk/vca/dangerousgoods/what-are-dangerous-g.asp)

補足(2018/03/17-2018/03/19):

Danger は、GHSでも当然CLPでも、Signal Word (警句語)として使われている。ここでのDangerous と Hazardous の意味が同じという観点とはまた違った観点である。

表情報源: 表の情報はEUの法提供サービスであるEU-LexからDSDとCLPの各国語の規則から抽出している。

略語:

CLP規則:
Regulation (EC) No 1272/2008 of the European Parliament and of the Council of 16 December 2008 on classification, labelling and packaging of substances and mixtures, amending and repealing Directives 67/548/EEC and 1999/45/EC, and amending Regulation (EC) No 1907/2006 (Text with EEA relevance)
指令67/548/EECと1999/45/ECを修正および廃止し、規則 (EC) No 1907/2006を修正する、物質と混合物の分類、表示、および、包装に関する2008年12月16日の欧州議会および理事会の規則 (EC) No 1272/2008 (EEA適用)

REACH規則:
Regulation (EC) No 1907/2006 of the European Parliament and of the Council of 18 December 2006 concerning the Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals (REACH), establishing a European Chemicals Agency, amending Directive 1999/45/EC and repealing Council Regulation (EEC) No 793/93 and Commission Regulation (EC) No 1488/94 as well as Council Directive 76/769/EEC and Commission Directives 91/155/EEC, 93/67/EEC, 93/105/EC and 2000/21/EC
指令1999/45/ECの修正、および、理事会規則 (EEC) No 793/93 、委員会規則 (EC) No 1488/94 、理事会指令 76/769/EEC、委員会指令 91/155/EEC、93/67/EEC、93/105/EC、 及び、2000/21/ECを廃止する、化学品の登録、評価、認可、および、制限 に関し、さらに、欧州化学品機関する2006年12月18日の欧州議会および理事会の規則 (EC) No 1907/2006  (REACH)

DSD指令:
Council Directive 67/548/EEC of 27 June 1967 on the approximation of laws, regulations and administrative provisions relating to the classification, packaging and labelling of dangerous substances
危険な物質の分類、包装、および、表示に関する法律、規則、行政規定のすり合わせに関する1967年6月27日の理事会指令67/548/EEC
[訳注:しばしば危険物指令と呼ばれる。廃止失効]

DPD指令:
Directive 1999/45/EC of the European Parliament and of the Council of 31 May 1999 concerning the approximation of the laws, regulations and administrative provisions of the Member States relating to the classification, packaging and labelling of dangerous preparations
危険な調剤の分類、包装、および、表示に関する加盟国の法律、規則、および、行政規定のすり合わせに関する1999年5月31日の欧州議会と理事会の指令1999/45/EC
[訳注: しばしば危険調剤指令と呼ばれる。廃止失効. 調剤(preparation)の語は、混合物(mixture)の語に新法では置き換わった。これもGHSにおける調和による英語の統一の影響であるとみて間違いないだろう]

SDS指令:
Commission Directive 91/155/EEC of 5 March 1991 defining and laying down the detailed arrangements for the system of specific information relating to dangerous preparations in implementation of Article 10 of Directive 88/379/EEC
指令88/378/EECの第10条の具体化における危険な調剤に関する具体的な情報のシステムの詳細な並びを定義し規定する1991年3月5日の委員会指令91/155/EEC
[訳注:廃止]

IATA:
International Air Transport Association 国際航空運送協会. 民間の団体ではあるが、ANA、 JALなど大手の航空会社のほとんどが加盟しており、この協会が発行するDagnerous Goods Regulations  (DGR 航空危険物規則書)の書籍が実務的には広く使用されている。 ただし、このルールは国連危険物輸送モデル規則に基づき、国連の航空輸送に関する機関であるICAO(国際民間航空機関)の出す技術書に従っている。(最近OECDが提唱しているIATA = Integrated Approaches to Testing and Associationとまったく一緒の頭字語だが、全く関係がない)

DGR:
IATAを参照。

補足2: 取るに足らない話だが、フランス語にはhasard という単語がある。おそらく、語源は英語のhazardと同じだろう。 しかし、意味が違う。 フランス語の par hasard は、英語の by chance である。 hasardは偶然のという意味がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終変更 2018/03/17

 

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