川下ユーザはREACH SDSをどう使うか

川下ユーザはREACH SDSをどう使うか

2013年8月にリリースされたECHAのNews Letter (August Issue 4) の記事What to do when receiving an extended safety data sheet? (拡張安全データシートを受け取った時何をすべきか) はある欧州川下使用取扱企業(DU)の具体的事例が記載されていて興味深い.―その企業Borealis(ボレアリス)社は,自社でSDSを受け取った時に内部で使用している”eSDS Evaluation tool” (excel book)を自身のウェッブサイトで公開している.

ボレアリス社は,世界に約5300人の従業員を抱え,2012年総売上高 75億ユーロ(1兆円弱 1円=132ユーロとして)のヨーロッパの石油化学大手企業である.フェノールなどの基礎化学品を製造供給していて,REACHにおける物質製造業者(Manufacturer)であるが,ポリオレフィン製品として自動車部品,食品などの包装材等も供給しており,REACHにおける川下使用取扱企業(Downstream User, DU)としての役割ももっている.

ボレアリス社は,2012年には,約 1 000 のSDSを川上業者から受け取っており,そのSDSの約10%が拡張SDSであったという.―その拡張SDS(Extended Safety Data Sheet, eSDS)の伝達とそれに基づく安全な使用取扱の実施は,REACHで導入された新たな義務である.eSDSは,EUがREACHの目標とする(そして,1992年のAgenda 21の目標とする)化学品のより安全な使用取扱(safety use of chemicals)を実現する強力なツールである.eSDSはGHSに準拠するEU SDS (REACH規則で規定されている)に,安全な使用取扱方法を具体的に記載した曝露シナリオ(Exposure Scenario)の添付ををもとめるものである.

つまり,ボレアリス社は,昨年100のeSDSを受け取ったということになる.

REACH規則はDUに,化学物質をそのESにそって使用取扱(Use)うことを求めており,ボレアリス社のその取組をこの記事で紹介してしている.―そのために使用しているExcel bookを自身のウェッブサイトで公開していて,だれでもダウンロードできる.

DUが行う受領eSDSに基づく作業

  • ステップ 1:  供給を受けている化学物質について自分自身の行う使用取扱(use)が,供給者の安全データシートでカバーされているかを確認する.
  • ステップ 2:  SDSに添付された曝露シナリオに記載されている労働作業条件(運転条件)を守っているかを確認する.
  • ステップ 3:  SDSに添付された曝露シナリオに記載されている リスク管理措置(Risk Management Measures, リスク管理方策)にあっているかを調べる.

適切で無い時には,REACHコンプライアンスのために新たな作業が発生する.このため,上流のこの曝露シナリオがDUにとって適切に記載されていることが,ビジネス上重要な意味を持ってくる.

求められる化学品供給者のSDSの内容の充実

そのため,欧州企業への化学品の供給業者にとってSDSの内容の充実がこれまで以上に求められることになってきている.このSDS,特に,それに添付されるESの内容について,欧州では化学品の供給者と使用取扱者が当局と協力してプロジェクトを組んでいることは別ページで紹介したとおりである.

CLP/REACH要件とタイミング

CLP/REACH要件とタイミング

改訂: 2015-02-22

タイミングの解釈 一部修正。SDSにも表示猶予期間が適用される。

timeline 2015-02-22

2013年8月(2013年6月1日~2015年5月31日)の 分類が係るEUのSDS/ラベル要件

2015/6/1から、完全にCLPに準拠して分類を実施しなければなりません。本記載はそれ以前の要件を記載していますのでご注意ください(2015/02/07) ただし、既に上市し表示しているものについては2年間の猶予があります。この「表示」猶予にはSDSも含まれています。

  • 物質SDS分類記載要件:  REACH規則に基づいて,物質のSDSには,GHSに基づく新分類とDSD/DPDに基づく分類の両者の記載が求められている.
  • 混合物SDS分類記載要件:  REACH規則に基づいて,混合物のSDSにはDSD/DPDに基づく新分類が必須であり,GHSに基づく新分類を追加することも認められる(GHS分類があっても,DSD/DPD分類の記載は免除されない).
  • 物質ラベル及び包装要件:  CLP規則に基づいて,物質のラベルには, GHS分類に基づく表示が求められる.
  • 混合物ラベル及び包装要件:  CLP規則に基づいて,物質のラベルには, GHS分類にもどつく表示又はDSD/DPD分類に基づく表示のいずれかひとつが求められる.ただし,REACH規則に基づいて,GHS分類に基づく表示を行っても,SDSにはDSD/DPD基づく分類の記載が必要である.
  • SDSには物質及び混合物の成分の分類の表示も求められることにも注意が必要である(これは旧法を踏襲している).

【作業手順】

現時点での作業手順としてみれば次のように整理できる:

  • 物質については,GHSとDSDに基づく分類をして,ラベルにはGHSラベルを,SDSには両方を記載する.
  • 混合物については,次の2つのやり方があって選ぶことができる:
    • GHSとDSD/DPDに基づく分類をして,ラベルには,GHSラベルを,SDSには両方を記載するか,
    • DSD/DPDに基づく分類だけをして,ラベルには,DSD/DPDラベルを,SDSにもDSD/DPD分類を記載する―要するに従来のやり方を踏襲する–

もちろん,ここで,GHS分類と記載しているのは,CLP規則にはじめて実装されたGHSに基づく欧州分類である.

注意:  CLP(Regulation (EC) No 1272/2008 of the European Parliament and of the Council of 16 December 2008)の条項に基づいて,REACH規則のSDSにおける分類要件は2008年12月31日に次のように修正されている:

“TITLE IV INFORMATION IN THE SUPPLY CHAIN

Article 31 Requirements for safety data sheets

10.  Where substances are classified in accordance with Regulation (EC) No 1272/2008 (注: CLP規則) during the period from its entry into force until 1 December 2010, that classification may be added in the safety data sheet together with the classification in accordance with   Directives 67/548/EEC (注: 危険物指令 DSD) .

From 1 December 2010 until 1 June 2015, the safety data sheets for substancesshall contain the classification according to both Directive 67/548/EEC  (注: 危険物指令 DSD) and Regulation (EC) No 1272/2008 (注: CLP規則).

Where mixtures are classified in accordance with Regulation (EC) No 1272/2008 (注: CLP規則) during the period from its entry into force until 1 June 2015, that classification may be added in the safety data sheet, together with the classification in accordance with 1999/45/EC  (注: 危険調剤令 DPD).However, until 1 June 2015where substances or mixtures are both classified and labelled in accordance with Regulation (EC) No 1272/2008 (注: CLP規則)that classification shall be provided in the safety data sheet, together with the classification in accordance with Directives 67/548/EEC (注: 危険物指令 DSD)  and 1999/45/EC  (注: 危険調剤令 DPD) respectively, for the substance, the mixture and its constituents.”

(参照: http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:32008R1272R(02):EN:NOT) 最新のConsolidated versions で見ることをおすすめします.

補足

2013/09/05 図の一部修正.現時点で,CLP分類(GHSに基づく分類)の記載がSDSに求められるのは,物質SDSと,GHSに基づくラベル及び包装を採用した混合物に関するSDSである.  そのような混合物の場合, SDSにGHSに基づく分類の記載も必要になる.

2015/02/22 図の一部修正. 分類再表示のための2年の猶予期間(Article 61(4)第二パラグラフ) 「既に表示の物質」の物質についての2年の猶予期間がSDSについても適用される。

Article 61(4) 第二パラグラフ

“By way of derogation from the second subparagraph of Article 62 of this Regulation, mixtures classified, labelled and packaged in accordance with Directive 1999/45/EC and already placed on the market before 1 June 2015 are not required to be relabelled and repackaged in accordance with this Regulation until 1 June 2017.” (CLP原文は、次のECHAのページも参照してください:
http://echa.europa.eu/web/guest/regulations/clp/legislation)

2013年7月17日 ECHA CSR/ES強化の為のロードマップ発表

ECHA CSR/ES強化の為のロードマップ発表
曝露シナリオ(ES)は欧州における化学品の安全な使用取扱(use)を向上させる重要なツールである。 ESはREACH規則に基づいて,プロセスの一部である化学物質安全アセスメントの実施と作成の途中で作成される。ECHAと複数のステークホルダの団体は2013-2018の期間中に曝露シナリオの内容と使用を向上させるための計画を立てている.

すべてのステークホルダが誓約憲章(commitment charter)に署名して、その取り組みへの協力の約束することを推奨している。この署名は,そのステークホルダが供給網(supply chain)内で化学品の安全な使用取扱の条件に関する正確で明瞭な情報を作成し伝達することが重要であることを認識したことを意味し、このロードマップで示されたアクションの開発と実施を支援することも約束したことを意味するものもある.

アクション1:  ステークホルダの間での共通の理解の深化

CSRとコミュニケーション用ESの情報の目的について、ステークホルダの間で共通の理解を実現すること

アクション2: 化学安全アセスメント用の情報の提供

川下使用取扱者の使用取扱をアセスメントできるように、川下使用取扱者から登録者に提供すべき情報の特定

アクションをとる分野 3: ITツールと標準化

安全な使用取扱に関する一貫性のある情報を効率的に生成しコミュニケーションを容易にするITツールの開発

アクションをとる分野 4: 配合者への支援 — formulatorは調合者とも訳されている.

配合者の製品を安全に使用取扱う条件を、配合者が単一物質の情報を統合して作るプロセスを設定する.

アクションとる分野 5: 最終使用取扱者の支援

安全のためのアドバイスを絞り込んで提供するために、化学品の産業最終使用取扱と業務使用取扱にそれぞれ特有の必要性を解析する。

【解説】

産業最終使用取扱と業務最終使用取扱

REACHにおける化学物質の安全アセスメント(安全評価)においては、使用取扱(use)は、大きく、産業使用取扱(industrial uses)、業務使用取扱(professional uses)、及び、消費者使用取扱(consumer users)に分けられている。 professional usesは、人により「専門家使用取扱」と訳している場合がある。 業務使用取扱は業務用途と考えて良い(ただし、RAECHの文脈では産業用途とは区別する)。

REACHはEU市場(厳密に言えばEEA)で物質が生まれて(=製造/輸入)から、消滅する(=廃棄/他の物に変わる)までの、まさに、物質の生涯の全過程(=全ライフサイクル段階)での化学品の包括的な安全を追求するために、そのアセスメントを求めるものである。

このライフサイクル段階は、物質の使用取扱(use)の段階―先に上げたように、産業/業務/消費者使用取扱段階―の他に、製造段階、配合段階(formulation life-cycle stage)、物品取扱段階(service life stage)、廃棄段階に分けてしかも漏らすことなく(包括的に)安全アセスメントを求めている。 SDSへの添付が求められるコミュニケーション用のESでは問題となるのは,物質の使用取扱段階(及び廃棄段階)である.

関連サイト

ECHA 曝露シナリオ交換ネットワーク   ENES

 

関連記事